人間離れした才能を持つサヴァン症候群とは?

サヴァン症候群の人はある特定の分野で突出した能力を持っている

脳の不思議を語る上で、外すことのできない症状があります。
「サヴァン症候群」です。

日本国内でもこの言葉を目にしたり耳にする機会が増えてきました。
詳しくは知らなくても、だいたいどのような症状を持っているのかを知っている人は確実に増えてきているのではないでしょうか。

人の中には、知的障害や発達障害を患う人たちがいます。
こうした人たちの中で、とりわけ一般の人では持ちようのない飛び抜けた能力を備える人がいますが、こうした人たちを総称し「サヴァン症候群」と呼んでいます。

“一般の人では持ちようのない能力”という表現は非常に幅広く曖昧ですが、人によって発揮される能力は異なるため、こうした定義の仕方が無難であり、且つ的確であると言えるでしょう。

具体的な能力は後述しますが、いずれにしてもこのサヴァン症候群に関しては、まだまだわからないことだらけであるのが現状です。

原因も分からなければ、どのようなメカニズムでそのような異常な能力が発揮されるのかもわかってはいません。
同じ原因やシステム、メカニズムでサヴァン症候群となっている人は存在しないという説すら出てくるほどです。

データ上わかっているのは、女性よりも圧倒的に男性の方が多いという点です。
脳の構造に関係があるのかもしれませんが、こうした事実から少しずつ解明へと繋げることで、さらなる脳の力を我々は知ることになるのかもしれません。

サヴァン症候群の能力

では、実際にサヴァン症候群の人たちは、どのような分野でその能力が発揮されるのかを見ていきましょう。

驚異的な記憶力

比較的多く知られているのが、信じられないほどの記憶力を持つ人たちです。
サヴァン症候群の人は、この記憶力の高い人が多く、程度の差はあるものの、一度覚えたことを忘れずに脳に定着させておく能力を持っている人も少なくありません。
目に映った景色や光景はもちろん、文字や数字などを一瞬で覚えてしまう人も世界中で確認されています。

芸術的な能力

絵が上手い人は世の中に多くいますが、サヴァン症候群の人はとりわけ繊細で詳細な絵を描くことに長けているケースが多いです。
記憶力と関連づけて語られることも多いですが、それ以外にも長時間作品を作り続けられるなど、芸術活動に限っては驚異的な集中力を発揮する人も少なくありません。

音楽的な能力

音楽の才能も同様で、絶対音感を持っていたり、一度耳にした曲は忘れることがなく、それをすぐさま再現できる能力を持ったサヴァン症候群の人たちがいます。
専門的な教育を受けていないにもかかわらず正確且つ感情的な音楽を奏でられる点で、一般的な音楽の才能を持った人とは区別できるでしょう。

人間離れした計算能力

暗算で行うことが到底無理な計算を素早く脳内で行ったり、あるいは、年月日と曜日を結びつけることができたりと、人間離れした計算能力を持ったサヴァン症候群の人たちもいます。
超絶な記憶力とはまた異なった能力で、実際に高速で計算を行っている点に特徴があります。
天才数学者と言われた人の中にも、サヴァン症候群だったのではないかと言われる人がいます。

優れた空間認知能力

あまり多い症例ではありませんが、空間認識に優れたサヴァン症候群の人もいるようです。
例えば、自分と相手との距離を正確に把握することができる人の報告例があります。
ピンとこないかもしれませんが、メジャーなどを使わずに距離感が正確にわかることを考えれば、どれほど優れた能力なのかは想像がつくでしょう。

知覚的な能力

人間には五感が備わっていますが、そうした感覚のいずれか、あるいは複数が優れていることも、サヴァン症候群の場合にはよくある症状として知られています。
触ったものの性質を正確に捉えたり、嗅覚が犬以上に優れているケースもあります。

サヴァン症候群で有名な人物

ここからは、サヴァン症候群であると診断された人や、そうであったと言われている人を紹介していきましょう。
そのエピソードを知ることで、この症状がどれだけ特異なものであるのかがわかるはずです。

山下清


画像引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/山下清

日本が世界に誇る画家に、「山下清」がいます。
“裸の大将”としても知られ、ドラマ化されたため、日本人にとっては非常に馴染み深く親しみやすい画家の一人となっています。

山下は日本中を旅し、そこで見た情景を主に切り絵という形で残してきました。
ドラマの中では、旅の先々で絵を描き、それをお世話になった人の家などに置いてきたというエピソードで語られていますが、実際には少し違うようです。
旅をしていたことは事実のようですが、絵は全て旅から帰った後に、記憶だけを頼りに描いていたとのことです。

彼のこの記憶力こそサヴァン症候群である証拠だとする専門家は多く、コミュニケーションを苦手とし、学習能力も一般的なレベルより低かったことからも、おそらく正しい見解なのではないかと思われます。

キム=ピーク


画像引用元:http://the-lifestyle-japan.com/savant-famous/

日本のテレビ番組などでも度々取り上げられているため、「キム=ピーク」の名前を知っている人もいるかもしれません。
彼もサヴァン症候群として世界中に知られた存在となっています。

アカデミー賞を獲得した映画である『レインマン』は、彼をモデルに作られました。
サヴァン症候群を一躍知られる存在にした張本人と言ってもいいでしょう。

キム=ピークは驚異的な記憶力の持ち主でした。
分厚い電話帳の中身を全て記憶し、名前を言えば電話番号を正確に答えることができたと言います。
歴史などについての書物も、一度読んだものは全て記憶しており、その数は9,000冊にものぼるとされています。
つまり、9,000冊もの本の内容を全て頭の中に収容することができていたのです。

2009年に亡くなっていますが、彼はサヴァン症候群の研究に寄与した人物でもあり、その貢献度は計り知れないものとなっています。

フジテレビの医療ドラマ「グッド・ドクター」

グッドドクター

山﨑賢人さんが主演で小児外科医の世界を舞台にした医療ドラマをご覧になりましたか?
(初回2018/7/12放送)

山﨑賢人さんが演じる主人公”新堂湊(しんどう・みなと)”はコミュニケーション能力に障害があるサヴァン症候群という設定です。

7歳の時に人体の器官をすべて暗記していたり、膨大な医学書をすべて暗記したりと、サヴァン症候群の特徴である”驚異的な記憶力”がこのドラマでも発揮されていました。

あくまでもグッドドクターは『小児外科』にフォーカスされているドラマですが、サヴァン症候群の驚異的な能力を知る事ができる貴重なドラマではないかなと思います。

余談になりますが、日本では過去にもサヴァン症候群をテーマにしたドラマが存在するのをご存じですか?

もしかしたら、放送時に見ていたかたも多いかもしれませんね。
こちらのドラマも特定の分野に優れた能力を発揮するサヴァン症候群の能力がピカリと光る作品でした。

・元SMAPの中居正広さん主演で2012年に放送されたドラマ『ATARU』
・元SMAPの草彅剛さん主演で2006年に放送されたドラマ『僕の歩く道』

あなたは知っていますか?脳の奇病【まとめ】

映画「エクソシスト」のモデルとなった脳の奇病 『抗NMDA受容体抗体脳炎』


画像引用元:映画『彼女が目覚めるその日まで』より┃https://eiga.com/movie/86618/special/

現代では徐々にその原因や仕組みが解明されてきてはいますが、かつては奇病とされ、特に悪魔が取り憑いているとされていた病気があります。
『抗NMDA受容体抗体脳炎』もその一つでしょう。

これは脳炎の一つであり、脳の特定の受容体に自己抗体ができることで起こる疾患です。
現在では有効な治療法も見つかっているため、正しい治療を受ければしっかりと回復する病気となっています。
それでも、この病気に罹患した患者の5%前後が死亡しており、15%ほどの患者が障害を残すとも言われているので、注意深く診療を行う必要があります。

非常に珍しい病気ではあるものの、日本でも1年で1,000人ほどが発症していると言われています。
発症者の多くは女性であることも、この病気の大きな特徴でしょう。
実に9割ほどが女性であるというデータもあるほどです。

映画「エクソシスト」のモデルになったとも言われており、それに登場する人物の症状を見れば、この病気にきっと恐怖感を覚えることでしょう。
ただ、すべての人があのような行動を取るとは限りません。
最近ではこの病気の理解も進んできているため、以前よりも早期に発見できる状況も整ってきています。

自分の意思と関係なく手や足が動く脳の奇病 『エイリアンハンド症候群』

直接的に手や足などを怪我したわけではなく、しかし体の自由が利かない状態になった時には、脳に何らかの異常があると考えるべきです。

『エイリアンハンド症候群』と呼ばれる病気がありますが、これはまさに体の自由が利かなくなる奇病です。
またの名を“他人の手症候群”とも言い、自分の手の動きが自分の意思と一致しない症状を伴う点に特徴があります。

病名も非常におどろおどろしいものですが、実際に原因や治療法は研究段階にあり、具体的なそれらは見つかっていません。
そのため、このような病名にせざるを得なかったのでしょう。

前頭葉や脳梁などに何らかの損傷があるため、手が自らの意思とは関係のない動きをしてしまったり、あるいは動かそうと思っても全く動かなかったりという症状が出ると考えられていますが、これもまだ明確なことはわかっていないのです。

病気自体は100年以上前には確認されているものの、何しろ症例数が少ないため、これが原因究明や治療法の確立を難しくしていると言われています。
直ちに命を落とすような病気ではありませんが、日常生活には大きな影響があり、罹患者は精神的な不安も抱えながら生活を送ることになるでしょう。

薬によって症状を一定抑えることができるとされているとは言え、根本的な治療ではなく、一時的な処置にすぎません。
患者のためにも、早期に解明する必要があります。

治療法無し、余命は2年以内 『致死性家族性不眠症』

中枢神経、つまり脳の神経に異常が発生することで、幻覚を見たり眠れなくなったり、あるいは自分の意思とは無関係に体が動くなどし、やがては死に至る病気が『致死性家族性不眠症』です。

“家族性”であることが、この病気の最大の特徴です。
つまり、特定の家計に現れやすい病気であり、遺伝性があるとも言われています。

日本でこの病気を罹患するケースはほとんどありませんが、しかし一部の家系には見られると報告されています。
発症は40代から50代で、家系こそ関係しているものの、男性と女性に差異はありません。

『致死性家族性不眠症』の最も怖い点は、治療法がないことです。
発症すれば間違いなく死に至り、意識がなくなるまではおよそ1年、長くても2年以内には死亡してしまいます。
薬物による治療や症状の軽減に関する研究は進んでいますが、症例数が少ないことと、特定の家系に現れる特異な疾患であるため、研究や臨床試験等が行われるスピードが遅いという現状もあります。

脳の病気がどれほど恐ろしく、また、脳という器官がどれだけ複雑なのかを象徴するような病気と言えるのかもしれません。

外傷性脳損傷(TBI)が脳に与える影響

外傷性脳損傷が脳に及ぼす影響について

脳神経外科の分野で仕事をしていく上で知っていなければならないことは多々ありますが、「外傷性脳損傷」もその一つでしょう。
脳の神経系に問題が生じ、場合によっては障害等が残ることもある脳損傷であり、英語で“Traumatic Brain Injury”と呼ばれ、『TBI』と略される症状がこれです。

この外傷性脳損傷が脳に与える影響は様々です。
程度によってはそこまで時間がかからず回復することも少なくありませんが、それこそ程度が重くなれば高次脳機能障害へと至り、あらゆる障害が残ることも珍しくはありません。いわゆる後遺症が残る可能性も捨てきれないのです。

・頭痛
・記憶力・注意力・認知力の低下
・情緒障害
・コミュニケーション障害
・四肢の麻痺

こうしたことが外傷性脳損傷の後遺症としては知られていますが、これだけではありません。
一般的な寿命と比べてそれが短くなることも報告されており、また、アルツハイマー病やパーキンソン病などに罹患する可能性も上がることが知られています。

明確な病名等はなくとも後遺症に苦しむ人々も多く、あらゆる影響が脳に及ぼされると考えるべきでしょう。

外傷性脳障害が発生する原因

外傷性脳損傷の原因は、“頭部に何らかの物理的な衝撃が加えられること”です。
これにより脳に損傷が生じ、上で挙げたような障害や症状が残る可能性が出てきます。
では、物理的な衝撃が加えられる原因は、一体どのようなことなのでしょうか。

・転倒
・自動車事故
・スポーツ外傷
・労働災害
・暴行事件

主な原因は以上のようになっています。
国や地域、年齢などによってどれが最も多い原因となっているのかは変わってきますが、転倒による外傷性脳損傷が最も多いと考えるのが一般的です。

小さな子供や高齢者の転倒がやはり多く、そのような人たちは転倒しやすいだけではなく、転倒した後に自らの頭をかばうことも困難なため、外傷性脳損傷となるケースが多くなっています。

ちなみにスポーツでは、自転車やアメリカンフットボール、バスケットボール、サッカー、野球などの競技で外傷性脳損傷となる人の割合が多くなっていますが、これは競技人口が多いためで、どのような種目でもそのリスクがあると考えておくべきでしょう。

リスクを伴う活動と活動に対する予防策

日常生活を送っている以上、外傷性脳損傷のリスクはいつ何時どこにでもあると言ってもいいでしょう。

自宅から出なければそのリスクはない、とも言い切れません。
浴室で転倒する可能性もありますし、上から物が落ちてきて物理的な衝撃が頭部に加わることも考えられるはずです。

ただ、リスクが高いという意味では、小児や高齢者の散歩や、年齢にかかわらずスポーツを行うことなどは、そのリスクを上げる可能性が高まります。
自転車やバイク、自動車の運転なども外傷性脳損傷のリスクがあるでしょう。
いわゆるガテン系と呼ばれる労働も、そのリスクの高い活動と言えます。

こうしたリスクをできるだけ下げるためには、以下のことで対策や予防を行う必要があります。

・運動機能の向上
・ヘルメットなどの着用
・スポーツ専門家による適切な指導
・危険に対する認識と知識や技術の習得

何よりも、外傷性脳損傷のリスクを知り、あらゆる活動にそうした危険性があることを知ることです。
これにより、それぞれの活動への予防策を講じることができ、最悪の事態を防ぐことに繋がるはずです。

外傷性脳損傷を防ぐための今後の見通しについて

どのような衝撃を頭部のどの部分に何度ほど加えれば外傷性脳損傷となるのかなどは、明確にはなっていません。
症状も含め個人差もあるため、今後もそうしたことが数値として出てくることはほぼないでしょう。

外傷性脳損傷を防ぐためには、正しい知識と意識を持つことが求められます。
その上で、脳震盪などの対処や危険性についても認識し、それを幅広く啓蒙していく必要性があると考えます。

日本は欧米に比べ、この部分が極端に欠けています。
スポーツの世界においては、怪我をしても最後までプレイし続けることが美徳とされる風潮がありますが、まずはこうした価値観から見直していく必要があるでしょう。

少しずつ変わりつつはありますが、化学的根拠に基づいた対策や教育がなされることが、外傷性脳損傷を防ぐために必要なことと言えそうです。
そのためにも、我々のような脳神経外科医は尽力しなければなりません。